第10回 白川法導電性ポリマーとは

この度、ノーベル賞化学賞を受賞された白川教授の開発した

導電性ポリマーとはどうのようなもの?

白川氏が卒業された東京工業大学、大岡山キャンパスで、私は学生時代を過ごしました。同じ高分子(ポリマー)物質を専攻していた私にとって、古くて、暗い建物である資源研究所で、導電性ポリマーの研究の芽が出ていたことは、非常に喜ばしく嬉しいことだと思っています。

さて、プラスチック(高分子)は絶縁材料として使用されることは良く知られていることですが、それに導電性を持たせる事は難しく、また本来の特性に反する研究だと思われがちです。。しかし、腐らない、錆びない、安い(石油を原料)、軽い、加工しやすいメリットがあります。

一方、電気を通すということを考えると、物質内に電子の移動をいかにスムーズに、速くするかにかかっています。

そこで、ポリマーのπ電子の雲が分子全体に広がったポリマーの共役二重結合をもつことがポイントととなります。

アセチレンガス(HC≡CH)を液体チッソ温度に冷やされた高濃度触媒(Ti(OBu)4-AlEt3の存在化で重合することにより、-(C-C=C-C=)n-の構造のように、二重結合と一重結合が交互に繋がり、π電子が安定的に存在し易いポリマーが合成できます。ポリアセチレンは上の構造が10-1000個繋がった構造のしなやかなで、黒色光沢を有するフィルムである。この物質に沃素(I2)およびAsF5をドープすると、電子が移動し易くなり、それぞれ500Scm-1、1.2kScm-1の伝導度が得られ、3倍延伸すると3kScm-1までの値が得られています。

この沃素(I2)の添加の発想はペンシルバニア大学での共同研究成果でしょう(今から25年くらい前の研究)。 さらにH2SO4ドーピングにより4kScm-1まで向上。当初の白川法は、このレベルでしたが、触媒を溶媒の沸点近くで熟成してから使用すると、10倍近い延伸可能なポリマーになり(Naarmann法ドイツのBASF社)、170 kScm-1まで向上しています。延伸の効果は当HPの「なぜなに物語」に書いたように、分子鎖を一定方向に並べる効果があり、電子の移動をさらに容易にする促進効果があります。

この伝導度の値は導電性で有名な共役ポリマーの極限構造を有するグラファイト(降雪地の道路の下や床材の暖房の面状発熱体等、ゴルファーのカーボン製クラブに雷が落ち易い)の25 kScm-1を大きく上回り、電線など使用されている導電性の非常に良い銅や銀などの金属の700 kScm-1に迫っています。 

どんな用途に使われているのですか?

携帯電話やパソコンなどに使われる小型軽量の高性能電池やコンデンサーで使用されています。現在電池用として、携帯電話の約25%くらいに使用されていると思います。パソコン用に使用可能で、小型高性能コンデンサーとしてPC向けに800万個/月。 タッチパネルの表示材料としても使用されていますし、プラスチック性太陽電池などに利用されています。

もともとの利用価値として考えられていたのは、高圧で電気を輸送すると損失が少ないため、非常に太い電線(重い)で高圧送電線として電力を送っているが金属は非常に重い欠点をもっており、それが非常に軽くでき、また錆びない性質も合わせて持っているため、有効に活用できると考えられていました。ただし、最近は抵抗ゼロという超伝導材料の研究がされているのはご存知の方も多いと思います。

今後の展望

光通信分野としての展開として、導電性高分子は光を当てると屈折率などの光学的な特性が大きく変化する性質があるので、光信号の流れを制御する超高速の光スイッチの道を開く新材料としても使用できる可能性はあります。インターネットの爆発的な普及によりさまざまな超高速光通信技術として、この導電性高分子の光スイッチは超高速通信の中核技術になるでしょう。また、分子レベルの認識や制御用のセンサーや生体機能材料、宇宙・航空用軽量導電材料、超LSI技術の超微細配線技術や電界効果型トランジスターなどの用途も期待される。

ノーベル賞の傾向

最近注目されている技術はIT(Information Technology)とDNAを中心とした生命科学分野です。 今年の受賞者はこの分野に貢献した方々です。 導電性ポリマーは私が学生時代の頃の研究であり、その成果が認められて、確か記憶では昭和56年頃に高分子学会賞を受賞した技術だったように思います。それを現在、そして将来のIT技術に結びついたことは、白川氏の基礎研究の継続と企業関係者の貢献によるところが大きいと思います。

現在、産学共同研究が奨励されており、私自身も2件の共同研究(1件は大学の立場、1件は企業の立場)を実施しています。 両方の身分を併せ持っている不思議な立場ですが、そこで思うことは、大学は新規物質の合成とその物性の発現機構を注力した研究が必要であり、企業はその用途展開、改良技術、生産技術を担当するようになれば、日本の工学分野の研究もさらに向上するでしょうし、日本の技術の世界に対する貢献度も、かなり上がると思います。


もっと詳しく知りたい方は、こちらのHPへ

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