伸長流動性

 (1) 伸長粘度 

 溶融紡糸、フィルム成形、ブロ−成形、熱成形などのダイを出た以降の自由表面下での変形のしやすさを評価する方法として、伸長粘度やメルトテンションがあります。メルトテンションは古くから用いられてきましたが、非等温下で溶融樹脂を変形させるのに要する張力であるのに対し、伸長粘度は一定の歪み速度、一定温度下での粘度を溶融樹脂の伸長変形下の粘度を表します。

 一軸伸長粘度の基本的な原理は、次のようです。サンプルを一定間隔L0 に配置された直径Dのロ−ル間にはさみ、ロ−ルを一定回転数Nで回転させたときのサンプルを変形させるのに要した力F(t)を測定します。そのときのロ−ラ−の速度VはπNDとなります。

サンプルの歪速度εは

    ε = d L /Ldt = V /L       (1)

一定であり、そのときの一軸伸長粘度ηE は次式で表されます。

ηE =σ/ε = F(t) L0 / S0 e−t V     (2)         

 ただし、 S0 はサンプルの初期断面積

この伸長粘度測定原理に基づいた装置の概略図を下に示しました。

サンプルの温度を一定に保つため、サンプルの密度にほぼ等しいシリコンオイルを使用し、測定温度にヒ−タ−で加熱し、温度を均一に保つため攪拌します。張力はロ−ルに取り付けた張力計LVDTにより測定されます。なお、通常サンプルの長さは15ー20cm、直径2ー3mm程度が適当です。サンプルは小型押出機の先にダイを取り付け、一定の厚さのロッドを作成します。成形中に発生する残留応力を取り除くため、ロッドを一定温度に保持されたシリコンオイル内で一定時間浸しておきます。

設定した歪速度は上式で求められますが、実際にはサンプルとロ−ラ−間ですべりが生じるため、装置の横方向の窓に取り付けたビデオカメラにより試料の直径の時間変化を常時記録することにより正しい歪速度の算出を行います。

長鎖分岐を持ったものや高分子量成分を含むものは、3η(t) よりも粘度が立ち上がる傾向にあり、伸長変形に対して抵抗する。これは分子鎖のからまり合いの度合が伸長粘度に表れる。伸長粘度の立ち上がりの大きいほうがブロ−成形におけるドロ−ダウンが小さく偏肉精度が優れる。ブロ−成形におけるパリソンの垂れ下がり(ドロ−ダウン)はパリソンの自重による伸びであり、偏肉の原因になるため、一般にドロ−ダウンの小さいほうが好まれる。また、押出発泡において伸長粘度の立ち上がりが大きいと、偏肉部の粘度が大きくなるので、セルの厚さが均一になり、発泡倍率があがる。

一方、フィルム成形では伸長粘度が時間とともに立ち上がるものは高引取速度になると分子鎖間での絡まり合いが顕著になり、成形中の溶融破断が起こりやすくなる。伸長粘度は、短時間で高分子材料の長時間緩和の存在を知ることができる。

(2)溶融張力

 溶融張力は伸長粘度と同様に、ダイを出た以降の成形性の指標として有用であり、インフレ−ション成形のように、溶融樹脂が延伸されながら成形される工程の加工性を評価する手法です。溶融張力は図のように、一定速度でメルトインデクサから押し出されたストランドを一定の糸径まで延伸するために必要な張力であり、実際の成形温度に対応した試験温度で測定する。一般に、この溶融張力が大きいとインフレ−ション成形でのバブル安定性が良く、ブロ−成形におけるドロ−ダウンは小さくなる。また、シ−ト、キャストフィルム成形で製品となるフィルム幅がダイ出口幅より狭くなるネックイン現象があるが、このネックイン量も溶融張力と密接な関係がある。

 図に市販ポリエチレンのMIと溶融張力の関係を示す。同一MIではLDPEは、L−LDPEに比較し溶融張力は大きく、バブルの安定性は良い。同一MIで溶融張力が異なる原因は、溶融張力は非等温下での測定であり、かつ分子鎖どうしの絡まり合いに大きく依存するため、長鎖分岐をもち活性化エネルギ−が大きく、歪み速度の増加に対して粘度上昇の大きい樹脂が溶融張力は大きくなる。

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